45 名前: 風と木の名無しさん 04/11/10 23:51:51 ID:X0ZxA2Pu

 イギリスのいれる茶はやはり美味い。
「もう一杯どうだい?」
「ありがとう、おかわりもらおうかな」
 うららかな秋の日である。
 今年は日本の庭で垣根が崩れるわ水が溢れ出すわ、その水で庭の草木が根腐れを起こすわと散々な年だった。
 被害は残っているが、それでも庭の方がやっと落ち着いてきたので一安心している。
「珍しいな、イギリスが僕のものを欲しがるなんて」
 イギリスはスコーンを勧めながら苦笑した。
「ま、僕のほうも町内で始めて作ったってことを、自慢にはしているけど、恥ずかしながら
最近はとにかくメチャクチャでね。君の持つ運営能力が羨ましくてならないというのが偽ざる気持ちだ。
そういうものも含めて、君の『弾丸列車』に興味があるんだよ」
「新幹線、か……」
 日本の持つ脅威の玩具だ。扱うには正確かつ綿密な計算が必要で、
それがなければそもそも起動さえ出来ない。が、その玩具の持つ動きの速さ、デザインに、
煩雑さを含めてなお魅了される人間は多い。しかし手先の器用な日本しか完璧に遊びこなす人間がいないのも事実だった。
遊びたいのに扱うことが出来ずに指をくわえて見ている仲間も多い。
「もっとも『作って寄越せ』『つうか作り方を教えろ』『つうか俺様が作った新幹線を他のやつに売らせろ』
『つうか俺様が打った新幹線がトラブル起こしたらお前が責任取れや』って真顔で言ってきたヤツがいるんだけどね?」
「誰に向かって言ってるんだい?」
 カメラ目線で話す日本ににこやかにイギリスが突っ込む。


46 名前: 風と木の名無しさん 04/11/10 23:52:57 ID:X0ZxA2Pu

「いやあ、愚痴みたいなもんだヨ」
 はっはっはと笑う日本にイギリスが呟いた。
「そういえばフランスがどこかに売り飛ばしたオモチャ。君のによく似たやつね。あれあとで散々ケチがついたらしいね。
……ザマーミロ!! フランス野郎め!!」
 いきなりたがが外れたように笑い出すイギリスに、ヨーロッパも病んでるよなーと日本はぼんやり茶をすすりながら思った。
「ああ、すまないね、僕としたことが。スコーンもっとお食べよ、日本」
「散々いただいてますよ」
 あはは、うふふ、と笑いあう二人はこれでなかなか付き合いが長いのである。
わりない仲になったことも過去にあったりなかったりした思い出の一つだってあるのだ。
もっともマジギレで殴りあったこともあるので、面倒な過去は忘れたふりをするのに限る。
「……平らなとこしか走らないオモチャに無理やり鉛筆の上だの走らせるから壊れるんだよ。
それで散々モーターだのおもりだのくっつけて、ヤスリで削った改造車を自力開発って言っても
どうなんだろうなあ、あれもさあ。やっぱ関わらなくて正解だった……」
「まあ、フランスがどうなっても知ったことじゃないけどね」
 イギリスはあくまで機嫌がいい。
「ところで台湾には手取り足取り遊び方を教えてやったそうじゃないか」
「ああ、頼まれたからね。彼は素直だし、教えてやったことは必死で自分でやろうと努力するし、そういうとこは好感が持てるよ」
「ふうん? 願わくば僕にも手取り足取りご指南頂きたいものだね。何だったらついでに僕の腰を取っても、いやむしろ君の腰を……」
「ご冗談、世界のイギリスに僭越なマネはとてもとても」


47 名前: 風と木の名無しさん 04/11/10 23:54:01 ID:X0ZxA2Pu

 あはは、うふふ。
 わきわきと動くイギリスの手を微妙に避けているのに日本とイギリスはにっこり笑いあった。
「……ところでここから見えるあの建物はなんだい?」
「……あー、カンコが建ててたような」
「微妙なアンバランスが実に前衛的だね」
 さらりとグッサリ刺してイギリスが茶をすする。日本は曖昧に笑って遠い目をした。
「この辺も高い建物が増えたね」
「最近町内一高い建物作るのが流行ってるらしいよ」
「君は建てないの?」
「……そういうの、飽きちゃってるから」
 中国と台湾でも競争しているらしい。カンコも何か騒いでたな。シンガポールだかマレーシアでも双子の塔を立ててご満悦だった。
あれは片方俺が作ったんだった。もう片方が……やめよう。ヘコむことを思い出さなくてもいい。
 それにしても小さい話だ。
 ケッ、21世紀にもなってそれかよ。俺がバブってる頃にぶち上げてた計画よりスケールダウンしてるじゃねえかよ。
あの頃より技術は向上しているはずなのに。
あの頃俺が作ろうとしてたのは天辺が雲突き抜けて中で街一つ収容できる、超絶高層ビルだったんだぞ?
「あー、はじけてさえなけりゃあなあ……。せめてアレ作った後にはじけてればなあ」
「おい、ヤツが現れたぞ」
 ガラ悪く己の思いに耽っている日本を下の道路を眺めていたイギリスが突っつく。


48 名前: 風と木の名無しさん 04/11/10 23:54:57 ID:X0ZxA2Pu

「にーほーんーーっ!!!」
「ゲッ」
 微妙に話題になっていた当人が自分を睨んでいる。トラブルばかりを運んでくる隣人に、日本の顔がイギリスの前だということも忘れ引きつった。
「そんなところで何してる?! さてはまた俺様の力に恐れをなして陰謀を張り巡らせてるんだな?! 全部、何もかも!! 
俺様が勉強も遊びも教えてやったのに暴力はふるうわ、他のヤツラに俺の悪口を吹き込むわ最低のヤローだテメーは!!」
「何を言ってるんだい,彼は?」
「あー……」
「いいか! お前なんかな、今離れて暮らしてる兄貴とまた暮らせるようになったら、
お前なんかすぐにも捻り潰してやれるんだぞ! 兄貴はスゲエ武器を持ってるんだ。おまえなんか目じゃねえ」
 拡散防止条約違反? とイギリスが呟いた。
 その後どんな武器なんだか興味ありますねえとイギリスが笑う。不本意だが日本はマジで一瞬ビビッた。
「大体日本の愛人が誰だか分かってて言ってるんですかね、あの人」
「愛人言うな」
 イギリスと日本の言い合いをよそにカンコはヒートアップしてゆく。
「兄貴は貧乏だからな。一緒に暮らし始めて安い小遣いでも家の手伝いを嫌がることはないだろう。そうなったらお前の家なんか抜くのはすぐだっ」
「再会した兄貴こき使う気満々なのか……」
「鬼の住処ですね」
 日本の呟きにイギリスが答える。


49 名前: 風と木の名無しさん 04/11/10 23:56:06 ID:X0ZxA2Pu

「そしたらなあ、お前なんか目じゃねえ!!お前の犯した許しがたい悪行は、寛大な俺様が許してやる。
土下座してその時は俺様を讃えろよ!! そうだ、家だってもっと大きくなる。今のなんか取り壊して宮殿みたいの建ててやるからな! 
警備の数も倍だ。人気者はつらいぜ。そうだ、せっかくだから世界初の宇宙軍だって作っちまうぞ!! これぞ世界初!! 俺様スゲエ! 天才! 大統領! 
もう町内中の憧れのマトだな! しまいにはあのアメリカのクソヤロウが涙ながらに言うんだよ。カンコ君、君には負けたよ、
君の前ではちっぽけな俺がとても恥かしい。俺はなんという間違いを犯していたんだ許してくれカンコ君。
いっそ町内の警察の地位も君に譲ろう。君のような人間にこそふさわしい。いやそこで俺は言うね。何を言ってるんだいアメリカ君。
君と僕の仲じゃないか、誰にも間違いはあるさ、だけど僕はそれでも許してあげるよ、さあその頭を上げてくれ……。
それを見ていた女共は一斉に俺に惚れるね。うおうすげえ俺様モテモテーッ!!」
「どうしたもんですかね」
「どうしたもんでしょうねー」
 しまいに泡を吹いてガタガタ震え出したカンコを念入りに日本は視界から除去した。
 ぶっちゃけ、目を合わせたくなかった。
 カンコはなおも何事かをしきりに喚いているようだったが、日本はおっと手が滑ったと言いながら耳栓を装着したので何も聞こえてこない。
 が、その耳栓の障害を超えて理解できた声があった。
「見てろよにほーんっっ!!」
 言うなりガッと走り出したではないか。


50 名前: 風と木の名無しさん 04/11/10 23:56:40 ID:X0ZxA2Pu

 来んのか!? ここまで来るのか?!!
 身を竦めて硬直していると、なぜかそのカンコは自分で立てた建物に飛びこんでいった。
「……何がしたいんだ?」
「きっと、僕たちみたいに自分もお茶会をしようと思ったんじゃないかな。自分で建てた建物を自慢しながら」
「あーそうねー」
 まあいいや、ここに来ないのならそれだけで。
 安堵しかけた耳栓を取った日本の耳にまたしても不気味な軋み音が響いた。
「?!」
 ごおんごおんという不安感をイタズラに煽り立てる音は、カンコの飛び込んだ建物から聞こえるようだった。
「……」
 次の瞬間、大音響が響き、驚いて棒立ちになったイギリスの裾を引っぱって机の下にもぐりこむ。
「助かったよ、慣れてるんだね君」
「地震かと思ったら違うのか?」
 そんな二人にかすかに聞こえる声。
「〜〜〜ぃごー」
 眉を顰めた二人が何かを言おうとした次の瞬間!!
 どごおん!!!
「な、なにィッ!!」
「?!」
 建物の屋上を突き破って飛び出る直方体!!
「アイゴーーーッ!!」
 叫び声は空の彼方のしじまに徐々に解け、やがてキラリと光る点となり、消えていった。
 二人は腰を抜かしたようにしばらく身動きすら出来なかった。


51 名前: 風と木の名無しさん 04/11/10 23:58:23 ID:X0ZxA2Pu

 やがて、
「……何? いまの」
「四角い箱でしたね……」
「……」
「……」
「エレベーター……?」
 ものすごく自信なさげに、心細い口調でイギリスが呟いた。こんな声は滅多に聞けるものではない。
 だが日本にもそれを観賞する余裕などなかった。
「……屋上、ぶち破るもんなのか? エレベーター……。いや、まさか、エレベータに見せかけたなんかの新型武器?! 
ま、まさか、宇宙軍のための軌道エレベータの試作機!? うおお!! 俺は今始めてカンコを見直した!! すげーぞカンコ!!」
「んなわきゃねーだろ」
 紳士らしからぬツッコミをイギリスが入れ、ついでに日本の脳天にチョップを食らわすとぐおっっとうめいて日本が悶絶した。
 もうええわ。
 というか、取り繕って上品に振舞うのも疲れた。
 カンコもバカだがこいつもちょっとアレだ。毎回思うことだが。
 イギリスはため息をつく。その吐息に日本が顔を上げ空を見上げた。
 蒼穹は雲ひとつない。
「平和ですね」
「そうですねえ」
 あはは、うふふ。
 二人はにっこり笑いあった。

 


ぶち込んだネタ多数。ソースはどこかにあるはず。
日本が性別受けみたいでいやだという方のために、普通っぽく書いてみました。以上!
そしたらあんまりエロい雰囲気になりませんでした。
長くなっちゃってすいません。今は反省している。